93頁、「死にたい願望の背後には、医師や看護師の尊い仕事の”やりがい”に奉仕するために患者は常に「病気という手土産」を持参し、その結果もたらされる聴くことや投薬や処置を含むケアを通じて「人とつながる」という水脈を確保してきたというパターンがある」。

128頁、「しかし、私たちが重視してきたモデルはそのどちらでもなく、問題自体の意味をも変えてしまうアプローチである。つまり「問題が問題のままで意味を持ち、それが可能性に変わる」ことに私たちは着目する。それは≪語りのモデル≫ともいうべきアプローチであり、現実をいかに物語るかによって、その風景はまったく違った装いを見せるのである」。

144−145頁、「「生活音の研究」は、このたびの老夫婦の息子と同様に、近所の家から発せられる物音がすべて自分に対する嫌がらせだと思い込み、抗議を重ね、トラブルになった経験をもつ当事者が進めた研究である。彼も、統合失調症は五感の”誤作動”が起こりやすく、孤独や孤立が背景にあり、「トラブルを通して人とつながっている」ことを発見した。そこで彼は、孤独や孤立を解消して現実の人との絆の回復を通じて、誤作動を起こす身体に「もう孤独ではないよ」と語りかけることを実践した。こうして「病識」を取り戻したのである」。

195頁、「木村敏氏の著作『臨床哲学の知』には、統合失調症の出現にまつわる話が取り上げられていて興味深い」。