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ホラーハウス社会 (講談社+α新書)

ホラーハウス社会 (講談社+α新書)

141頁、「確かに近代の刑事司法では、精神科医責任能力を鑑定する専門家である。だが、犯罪をどう扱うかについて、精神科医が「一種の発言権」をもつというのは、それとはまったく別の次元に属するはずだ。しかしながら、精神医学はそこにひとつの欲望を育んだのだ。犯罪そのものを理解し、我がものにしたいとする欲望。犯罪者の分析を通して、犯罪の秘密に迫ろうとする欲望だ。ここに現れるのが、犯罪精神医学という学問なのだ」。

146頁、「このような観点からみれば、動機なき犯罪というものの性格が明らかになるだろう。動機は本人の口から語られようが、あるいはそれがいかに論理的であろうが、それだけでは動機として通用しない。動機が動機であるためには、それが同じ社会に住む人びとを納得させるものでなければならない。つまり、動機は社会的に共有された「ストーリー」でないかぎり、決して動機とはなりえない。それは人びとが常識としてもっている犯罪観と合致する必要があるのだ」。

231頁、「(藤井誠二の解説)穿ちすぎとの批判を覚悟で言えば、かれら人権派の「善意」は「赦す被害者」物語を社会に浸透させることによって、加害者の厳罰化は被害者にとって救済にならないという空気づくりにあるのではないか。(中略)「赦す被害者」物語の流布は危険だ。犯罪被害者の救済の法整備がようやく緒についたばかりであるという日本の後進的な状況は忘れ去られ、死ぬまで憎み続けなければならない被害者が多いという現実や、あるいは加害者が社会復帰することによってさらに恐怖が増すという遺族が多数であるとい現実からも人々の関心は遠のく」。