[rakuten:book:12710096:detail]
39頁、「やがて二人はいくぶん正気と元気を取り戻し、はじめて体をあわせたものの、敷布団に初の交わりの跡を残してしまい、その後京都へは幾度も一緒に行ったのだが、そこは二度と泊まれぬ宿になった。後になっての容子の告白によると、その辺のことを彼女の父は心配したものの、男親としては話しにくく、絵入りで解説した一種の手引書を入手し、「大事なことだから、こっそり読んでおくように」と式場へ向かう車の中で彼女に渡した、という」。

76頁、「イタリアの経済学者パレートが好んだ、「静かに行く者は健やかに行く、健やかに行く者は遠くまで行く」という箴言を、何度も口ずさみながら」。

113頁、「帰国して、登場人物について、あれこれ思いをめぐらせていたとき、容子が死んでみて分かったことだが、死んだ人も大変だけど、残された人もたいへんなんじゃないか、という考えが浮かんだ。理不尽な死であればあるほど、遺族の悲しみは消えないし、後遺症も残る。そんなところから、少しの時間でも結婚生活を送って、愛し合った記憶を持つ夫婦を描けないかと思った。夫婦だけでなく、親子だってそうだ。先に子供に死なれたら、その痛みや喪失感がなくなることなどないのでは」。