本屋で買った。

2円で刑務所、5億で執行猶予 (光文社新書)

2円で刑務所、5億で執行猶予 (光文社新書)

79頁、「(スケアード・ストレイトが再犯を促進するという結論になっている)その理由は、実験データからだけではわからない。仮説としては、後で述べるように、スケアード・ストレイトは、ショックを与え、不安を喚起するだけで、その解決方法を示さないため、残された不安が再犯の原因となるのかもしれないし、人間は模倣学習をする動物であり、あるべきモデル、模倣の対象がなかった場合には、反面教師とはいえ、それを教師として模倣してしまうといった可能性が考えられる。虐待を受けて育った子供たちが、「絶対に自分の親のようにはならない」と心に誓いながら、育児のストレスがたまると子供を虐待する、いわゆる「虐待の連鎖」と言われる現象に似ているのかもしれない」。

88頁、「彼女は、犯罪行動と直接的に関係のある認知や行動(生まれつきの資質ではなく、変化が可能な対象)をターゲットとして、その変化を引き出すのに十分な程度の働きかけを行うプログラムは効果があるが、漠然としつけ指導を行ったり、忍耐力や自信(自尊心)の要請を目的としたプログラムをおこなったりすることは効果がないと指摘している」。

181頁、「ラッピ・セパラ博士は、まず、各国の受刑者率と犯罪率との関係を分析して、犯罪と受刑者率が、互いに独立した現象であること、つまり、相関がないことを実証的に確認している。その上で、受刑者率と所得格差や福祉予算等を比較して、「犯罪との戦い」よりも「貧困との戦い」を重視する福祉的国家ほど犯罪者に対して寛容であり、受刑者率が高いことを確認している。その要因として、ラッピ・セパラ博士は、福祉的国家に共通な要素として、連帯(共生の精神)を基本としてリスクを個人の自己責任ではなく、みんなで負う、何かあってもお互いに助け合う社会であること、つまり、犯罪者も仲間の一人としてとらえ、排除しない社会であり、政府や人に対する信頼感が高く、結果として、不安の少ない社会であることを挙げている」。

225頁、「最近の心理学の研究によると、心理療法における成功の40%は患者本人の個人要因、30%は治療的関係、15%は期待つまりプラシーボ(偽薬)効果、15%は特定の技法に帰することができるという。つまり、ある個人に対する認知行動療法が効果があるとしても、認知行動療法という技法の効果は15%であり、個人的要因や治療者との関係がもっと重要だということである」。

226頁、「人は、過去に戻ることができるわけではなく、未来に向かった関係性を築き、それによって社会に役に立っているという新しいアイデンティティーを身につけることで、前向きに生きていくことができる。そのために重要なことは、そうした関係性やアイデンティティーの変化を生み出す環境を整えることである。社会に居場所のない状態で人は更生することはできない。心理療法は、そのきっかけや方向性を与えるに過ぎず、本当に立ち直るためには、地域での定着支援が不可欠であり、その中で支援者との関係性が伴われ、安定したアイデンティティーを形成することで、人は立ち直ることができるのである」。